はじめに
韓国の平生教育法の制定から8年が経とうとしている。現行の平生教育法は、1982年に制定された社会教育法を全面改正したものである。1995年5月31日に大統領諮問機関の「教育改革委員会」が出した「新教育体制樹立のための教育改革方案(以下、「5・31教育改革方案」と略称)」を契機に、韓国社会では平生教育(=生涯教育)が注目されるようになり、それが、法制及び行政組織の改編、平生教育体制の構築などの大々的な教育改革へとつながっている。このような政府主導による積極的な教育改革により、近年、平生教育に対する自治体及び住民の認識が高まっており、平生教育の制度的整備とともに、それによって行われる実践も増えつつある。
ところが、最近、平生教育の法制上の構造的問題や限界、そして平生教育関連の他の法律との重複の問題などが生じ、「平生教育法」の改正に関する論議が活発に行われている。現在与野党がそれぞれ平生教育(学習)法案を国会に上程しているが、本稿では、これらの与野党の改正法案及び両党の法案を審議した国会教育委員会内の法案審査小委員会による修正案を中心に、今日の韓国における平生教育法の改正論議を検討し、平生教育法をめぐる最近の動向及び今後の課題について考えたい。
1.平生教育法の制定から改正論議までの経緯
グローバル化及び情報化、少子高齢化等のような近年の社会変動により、近年韓国においては従来の学校教育中心の教育体制ではなく、新たな教育体制の構築を求める声が高まりつつある。韓国政府は、1995年に「教育改革委員会」によって出された「5・31教育改革方案」に基づき、「誰でも、いつでも、どこでも、希望する教育を受けることができる『開かれた教育社会、平生学習社会』の建設」を国の新教育体制の目標として掲げ、すべての国民が最大限自己実現できる教育福祉国家(Edutopia)の建設を表明した[1]。「5・31教育改革方案」が出されてから、韓国政府が平生教育振興のために取り組んだ最も大きな改革は、教育法体系の再構造化である。1997年に教育の最上位法として教育基本法を新たに制定し、その下に初・中等教育法、高等教育法、社会教育法を並列させることで、法の構造上において学校教育と社会教育を対等に位置付けた。その後、1999年8月に社会教育法を全面改正し、平生教育法を誕生させたのである。従来の「教育法」が主として学校教育に関する規定のみを取り扱っており、教育の基本法としての機能をするには限界があったため、新しい教育法体系の構築は肯定的な評価を受けた[2]。
しかし、実際、現行の平生教育法は、平生教育に関する基本法としての地位や位相を有するにもかかわらず、その機能においては、既存の社会教育法を代替しており、新しい教育法体系において依然として従来の社会教育分野の業務を管轄する役割に止まっている。さらに、他の分野における平生教育関連の法律との関係においても基本法として機能しておらず、これらの要因が今日平生教育法の改正論議をもたらしているのである。
平生教育法がもつ限界と問題は、同法律の施行元年である2000年から学界のみならず、政策当局側でも認知していたといわれている[3]。その後、施行から約5年が経った時点で、本格的な法改正論議が始まり、次々と平生教育法の改正案が出されるようになった。<表1>は、これまで国会に上程された平生教育法の一部及び全部改正案である。
<表1> 国会に提案された平生教育法改正案
この中で、
現行の平生教育法は、憲法第31条第5項に基づいて制定された平生教育に関する基本法的な地位を有しているにもかかわらず、平生教育に関する基本法としての機能は果たしておらず、平生教育に関する個別法のような効力を持つものとして機能することによって、平生教育関連の様々な教育政策を定めている他の法律との重複問題を抱えており、それ故、国力と資源を浪費する結果が招かれたと指摘されてきた。それ故、李仁栄議員らの改正案では、平生教育に関する基本法としての位置を確保すると同時に、国の平生教育振興に対する責務を強化し、国の平生教育振興制度と体制を明確にすることによって、平生教育振興政策及び事業がより効率的に行われる基盤を構築することを目的としている[7]。しかし、この李議員らの改正案は国会に上程されてから一年以上係留されているなど、平生教育法の改正は当分足踏み状態に置かれるようになった。
その中、李君賢議員や金教興議員らによる一部改正案をはじめ、今年の4月9日には野党側から李仁栄議員らによる全部改正案に匹敵する新たな全部改正案が提案され、1年以上国会に係留中である李仁栄議員らによる改正案を含めて平生教育法の改正への動きが、近年、再び稼動し始めているのである。ハンナラ党(野党)の林亥圭議員らが中心になって提案した「平生学習法(案)」は、憲法及び教育基本法の規定に基づき、学習者の学習権と平生学習の原理に合わせた学習者中心の法的体制を確立するとともに、学習者の相互支援及び連携において業務上の重複を避けるために、現行の「人的資源開発基本法」との機能の調整及び統合を図ることが必要であるという理由から発議されたものである[8]。
以上の平生教育法改正案の発議をうけた国会の教育委員会では、法案審査小委員会(以下、小委員会と略称)を設け、2007年6月にこれらの改正案に修正を入れ、新しい改正案を出している。以下では、これらの主要な改正案、つまり李仁栄議員らの改正案及び林亥圭議員らの改正案、そしてこの二つの改正案に基づいて小委員会が出した修正案を中心に検討し、韓国の平生教育法改正における争点を明らかにしたい。
2.主要な平生教育法改正案の内容と特徴
(【資料】平生教育法の改正案の比較を参照)
1)開かれたウリ党の李仁栄議員らによる改正案「平生教育法」
1999年に既存の社会教育法を全面改正し制定された平生教育法は、教育制度のバランスの取れた発展と包括的構造化のためにはふさわしくないものであるという指摘がある[9]。このような指摘は、平生教育はその対象及び範囲が広く、また憲法や教育基本法に示されている平生教育理念の実現のためには、平生教育法が平生教育に関する基本法として機能しなければならないが、現行の平生教育法は新しい教育法体系において依然として従来の社会教育分野の業務を担う役割に止まっているという点から起因するものである。さらに、現行の平生教育法は、平生教育に関する国及び地方自治体の役割規定が弱く、他の法律との関係においても基本法としての機能をしていないという問題も内包している。
それ故、平生教育法の施行中に様々な現実的問題と構造的限界が次々と露呈し、施行から約5年が経過した時に法律の全面改正議論が出現し始めるようになったのである。すなわち、
【主要内容】
@法律の題名と目的に符合するように、平生教育等の用語を定義する(案の第1条及び第2条)。
A「平生教育法」において適用する領域を成人基礎教育、市民教育、職業能力開発教育、文化芸術教育、地域社会教育等で明示する(案の第5条)。
B平生教育を体系的に推進するために、国及び地方自治体が平生教育振興に関する基本計画を樹立するようにする(案の第10条)。
C地域社会の平生教育の活性化のために、基礎自治体を指定し、支援できる根拠を作る(案の第16条)。
D 平生教育を円滑に進めるために、中央に平生教育振興院、地域に 平生教育振興センター及び平生学習センターを設立・運営する(案の第19条ないし第21条)。
E各種の平生教育施設及び団体を運営する際には、平生教育の効率性と専門性を担保することができるように平生教育士を義務的に配置し、学校に平生教育士を配置できるようにする(案の第26条)。
F 平生教育機関の設置者の資格要件を強化する(案の第28条)。
G地域住民と親、生徒の要求によって、学校で平生教育を実施することができる根拠を新設する(案の第29条)。
H成人の社会生活に必要な基礎能力の向上のために、文解教育を強化し、支援できる根拠を用意する(案の第38条及び第39条)。
I国民の平生学習を促進し、人材の効率的な開発・管理のために、国民の学習経験を総合的に管理する学習口座制を運営する(案の第41条)。
J平生教育施設及び機関に対し、租税、その他の公課金を減免または免除し、平生教育施設及び設備等に対して関税を減免できる根拠を作る(案の第45条)。
Kこの法によって、設立・設置される平生教育振興政策調整委員会、平生教育振興院、平生教育振興センター、平生学習センター等の類似している名称の使用を禁止するようにする(案の第46条)。[10]
以上の内容にみられるように、李議員らによる改正案の最も重要な特徴は、平生教育法の基本法としての性格を明確にした点である。すなわち、現行の平生教育法第1条「この法律は平生教育に関する事項を定めることを目的とする」を、「この法は、『憲法』第31条第5項と『教育基本法』第10条の規定による立法趣旨に基づき、平生教育の振興に対する国及び地方自治体の責任と平生教育制度とその運営に関する基本的事項を規定することを目的とする」に改正し、平生教育法の目的をより明確に示している。また「平生教育に関しては他の法律に特別な規定がある場合を除いてはこの法律を適用する」という現行の平生教育法第3条(他の法律との関係)を、改正案の第6条で「この法は、平生教育に関して他の法律に優先して適用する」と規定し、他の法律との関係において平生教育法の適用を優先させているのである。しかし、現行の「人的資源開発基本法」第3条において「この法は、人的資源開発に関して他の法律に優先して適用する」と規定しており、平生教育法改正案との衝突が予想される。
第二に、李議員らの改正案では、平生教育の領域という条項も新設している。すなわち、改正案第5条で「平生教育の領域は、成人基礎教育及び文解教育、市民教育、職業能力開発教育、文化芸術教育、地域社会教育などを含む」と規定している。ところが、この第5条は、同改正案で規定している他の条項との関係において相互関連性が乏しく、体系化していないと指摘されている。すなわち、次の<表2>にみられるように、改正案における平生教育の定義、領域、機関に関する規定の基準がそれぞれ異なっており、また平生教育の領域に関して各分野を所管している部局から異見が提示されている状況である[11]。
<表2>平生教育の定義及び領域と平生教育機関に関する内容の比較
平生教育機関の定義(改正案第2条第3号) |
平生教育の領域(改正案第5条) |
平生教育機関の形態(改正案第5章) |
・ このようによって認可・登録・申告された施設 ・ 学院(=塾)の中、学校教科教習学院を除く平生職業教育学院 ・ 住民自治センター ・ 女性関連施設の中、平生教育を実施する施設 ・ 文化施設及び文化講座の設置機関または団体として平生教育を実施する施設 ・ その他に、他の法令による施設として平生教育を主な目的とする施設 |
・ 成人基礎教育及び文解教育 ・ 市民教育 ・ 職業能力開発教育 ・ 文化芸術教育 ・ 地域社会教育 ・ その他 |
・ 学校の平生教育 ・ 学校形態の平生教育施設 ・ 社内大学形態の平生教育施設 ・ 遠隔形態の平生教育施設 ・ 事業場附設の平生教育施設 ・ 市民社会団体附設の平生教育施設 ・ 学校附設の平生教育施設 ・ 言論機関附設の平生教育施設 ・ 知識・人材開発事業関連の平生教育施設 |
出典:国会教育委員会「平生教育法全部改正法律案【李仁栄議員代表発議】検討報告」2006年11月、p.10。
第三に、同改正案では、平生教育振興政策基本計画の樹立(案の第10条〜第12条)をはじめ、平生教育振興政策に関する主要事項を審議・調整するために、中央に「平生教育振興政策調整委員会(国務総理傘下)」、地方に「地域平生教育・人的資源開発委員会」(市・道)」、「地域平生教育・人的資源開発推進協議会(市・郡・区)」などの設置を定めている(案の13条〜第15条)。また、国レベルの平生教育関連政策の研究・開発及び支援業務を担当する機関として「平生教育振興院」を法人として設立し、独立機関化を明記しており、市・道知事には各市・道レベルで平生教育振興院の役割を遂行する「地域平生教育振興センター」を指定するように、また基礎自治体(市町村レベル)には「地域平生学習センター」を設立・運営するようにしている(案の第19条〜第21条)。これらは、現行の平生教育法により、教育監(=教育委員会委員長)の所属下に設置されている「平生教育協議会」と、中央及び地方において各々設置または指定されている「平生学習センター」及び「地域平生教育情報センター」が、実際、国及び地方レベルの平生教育政策の樹立及び施行に関して十分な機能を果たしていないという問題意識から生まれたものである。
しかし、人材開発に関しては、現行の「人的資源開発基本法」(
ところが、このような改正は、平生教育の活性化のために、既存の学校の施設及び人材を最大限活用しようとする趣旨と思われるが、各級学校が置かれている地域及び施設の環境条件などの相違を考えれば、すべての学校に同一の義務を与えるのは困難であり、その実効性も期待しがたいという指摘がなされている。また、学校は平生教育を委託・実施することができるが、その場合、委託対象として民間も含めており、公共性の問題が提起される余地をも内包しているのである[12]。
第五に、平生教育士に関しては、改正案第26条において、平生教育機関及び地域平生学習センターにおける平生教育士の必置を定めており、そして各級学校には平生教育プログラムの運営のために必要な場合には、平生教育士を採用することができると規定している。これらの案は、平生教育の専門性を重視しているという面から高く評価できる。
ところが、平生教育機関には公共機関だけではなく、塾や事業場付設の平生教育機関などの民間機関も入っており、官民を問わず、すべての平生教育機関に平生教育士の配置義務を付与することは、多少無理があり[13]、また配置義務を果たさなかった場合の制裁措置の規定がなければ、既存の平生教育法における平生教育士の配置規定と何ら変わりもなく、依然として制度の形骸化を招きかねないと思われる。
第六に、文解教育は、「平生教育の領域」(案の第5条)にも示されているが、それとは別途に「文解教育の実施等」(案の第38条)、「文解教育プログラムの教育課程及び学歴認定等」(第39条)という条項を設けて、国及び地方自治体の「成人の社会生活に必要な文解能力等基礎能力の向上」のための努力を義務付けている。
第七に、平生教育振興事業の法的根拠を新設しているが、例えば、地域社会の平生教育の活性化のために、平生学習都市に関する条項を新しく設けており(案の第16条)、また「国民の平生学習を促進し、人的資源の効率的な開発・管理のために、国民の個人的学習経験を総合的に集中管理する」(案の第23条、第41条)学習口座制度の導入・運営も規定している。
最後に、後で検討する他の改正案とは異なる面として、平生教育施設及び機関に対し、租税及びその他の公課金の減免または免除を可能とする条項も設けている。
2)ハンナラ党の林亥圭議員らによる改正案「平生学習法」
上記の李議員らの改正案が発議され、約1年以上国会で漂流されている間、平生教育法より上位法的位相を有する「人的資源開発基本法」の一部改正法律案が、
同改正案は、現行の平生教育法が、近年増えつつある個人の学習活動を十分に包括しておらず、また国及び地方自治体が個人の多様な学習に対して効果的に支援できる計画や推進体系を構築していないという点から、「平生教育」の替わりに「平生学習」の概念を導入している。例えば、学習者中心の新たな学習法を構築するという狙いから、法律の名称も既存の「平生教育法」を「平生学習法」に替えることを提案している。そして、同改正案では、現行の平生教育法が「人的資源開発基本法」と学習者の相互支援及び連携において業務上の重複があり、それによる人的・財政的損失を減らすためには、「人的資源開発基本法」との機能の調整及び統合が必要であると、改正の理由を示している[14]。同改正案の主な内容は、次の通りである。
【主要内容】
@平生学習の概念を「憲法」第31条第1項及び第5項、そして「教育基本法」第3条及び第10条の規定に基づき、学習者の学習権と平生学習の原理を基本にし、学校教育と平生教育、そして自己学習をすべて含む概念に拡大する(案の第1条及び第2条)。
A現行法は、「平生教育法」と「人的資源開発基本法」との相互関連性が不可避であるにもかかわらず、その役割及び機能の調整が行われているため、「人的資源開発基本法」と連携した平生学習基本計画を樹立するようにする。
1.平生学習振興基本計画を「人的資源開発基本法」第5条の規定による人的資源開発基本計画に含めて樹立するようにする(案の第10条第1項及び第2項)。
2.市・道知事に、「人的資源開発基本法」第7条の3第2項第3号に年度別平生学習振興施行計画の樹立・施行を含むようにする(案の第11条)。
3.市・道平生学習協議会を「人的資源開発基本法」第7条の3に規定した機能に代わるようにする(案の第14条)。
B平生学習振興政策に対する主要事項の審議のために、「平生学習振興特別委員会」を設置する(案の第13条新設)。
C地域住民のための平生学習の効率的な実施のために、市長・郡守または区長を議長にする市・郡・区平生学習協議会を設置する(案の第15条新設)。
D平生学習の支援体制を統合するために、「平生学習振興院」を設置し、支援業務と研究開発業務を区分した(案の第20条)。
E現行法は、教育人的資源部長官及び教育監が地域平生教育情報センターを運営することができるように規定しているが、センターの責任のある運営のために市・道知事が市・道平生学習振興院を運営することができるようにする(案の第21条)。
F平生学習の概念を学校教育にまで拡大することによって、平生学習の理念と地域中心の平生学習体制の構築のために、「学校の平生教育」を平生学習の振興のための平生教育機関に提案する(案の第30条)。[15]
現行の平生教育法及び李議員らの改正案に対し、林亥圭議員らの改正案が持つ最も特徴的な点は、平生学習の概念を取り入れていることである。林議員らの改正案第2条第1項に「平生学習とは、国民が生涯にわたって遂行するすべての種類の学習を指し、学校教育による学習、平生教育による学習及び教授過程によらない自己学習等を意味する」と定め、平生学習の範囲に学校教育と自己学習までを含めている。その理由は、「教育基本法の下位法ではなく、終身雇用と平生学習という社会的現実を考慮した学習に関する基本法が切実に必要」[16]であるからだとされている。
しかし、このような平生学習の概念を法律に導入することにより、現行の教育法体制との混乱や衝突が予想される。すなわち、林議員らによる改正案の平生学習法が学校教育に対しても適用されると、平生学習法と学校教育関連法(初・中等教育法、高等教育法)との規定領域が重複し、全体的に混乱を招きかねないのである。また、平生学習の概念に「自己学習」を含めているが、この場合、平生学習の概念が法的具体性を欠如する可能性が生じるという指摘もある[17]。
第二に、同改正案では、人的資源開発基本法と現行の平生教育法がその役割及び機能において重複する点があることから、平生学習振興計画及び推進体系を人的資源開発基本法と連携して構築していくことを提案している。すなわち、同改正案第10条において「教育人的資源部長官は『人的資源開発基本法』第5条規定による人的資源開発基本計画を樹立するにあたって平生学習振興計画(以下、「基本計画」という)を含め、樹立しなければならない」と規定している。同条の趣旨は、基本計画が大統領を委員長とする中央の汎部局間協議体である「国家人的資源委員会」の審議を経て確定されるようにすることによって、これまで指摘されてきた平生教育関連政策における部局間の相互重複による非効率性を解決するためであると思われる。
しかし、同改正案第10条をはじめ、第11条「市・道知事は『人的資源開発基本法』第7条の3第2項第3号に年度別平生学習振興施行計画の樹立・施行に関する事項を含めなければならない」、第13条「平生学習振興政策に関する主要事項を審議するために、『人的資源開発基本法』第7条による国家人的資源委員会の傘下に同条第9項の規定によって平生学習振興特別委員会(以下、「特別委員会」という)を置く」、第14条「市・道平生学習協議会の機能は、『人的資源開発基本法』第7条3に規定しており、その機能を代行する」にみられるように、平生学習基本計画や推進体系に関する規定を人的資源開発基本法に基づいて定める場合、平生学習の多様性を十分反映できないおそれがあり、平生学習法が実質的には人的資源開発基本法に従属してしまい、人的資源開発基本法の下位法として機能し得る可能性もある。なお、平生教育法と他の法律との関係においても、李議員らの改正案では平生教育法を「他の法律に優先して適用する」と規定しているのに対し、林議員らの改正案では「他の法律に特別な規定がある場合を除いては、この法を適用する」と定めているなど、林議員らの改正案は、人的資源開発基本法との関係を念頭に置いた改正といえよう。
一方、李議員らの改正案との共通点として、林議員らの改正案第11条に「年度別平生学習振興施行計画の樹立・施行」の主体が「市・道知事」となっているが、現行の「地方教育自治法」第20条によれば、平生教育業務が市・道教育監の所管となっており、法律間の矛盾が生じる可能性がみられる[18]。
第三に、平生学習振興のための研究・開発及び支援業務の円滑な遂行のためには、業務間の機能調整及び役割区分が必要であるという理由から、平生学習振興院を法人として設立し、同機関には平生学習の支援体制を統合する実務執行の役割を付与し、一方、従来の平生教育センターを管掌してきた韓国教育開発院には、平生学習のための研究・開発中心の機能を担わせる案を出している(案の第20条)。これに対し、李議員らは、林議員らと同じく平生教育振興院を法人として設立することを提案しているものの、平生教育振興院に研究・開発業務及び支援業務を与えており、この点においては両改正案が相違をみせている。
3)国会教育委員会内の法案審査小委員会の修正案「平生教育法」
【主要内容】
@ 法律の名称及び目的は、李仁栄議員らの改正案と同様である。(案の第1条)
A 平生教育の領域をもって、平生教育の用語を定義する。(案の第2条)
B 他の法律との関係においては、現行の平生教育法と同じく、「他の法律に特別な規定がある場合を除いて」、同法を適用する。(案の第3条)
C 平生教育振興委員会の所属を教育人的資源部長官の傘下にしている。(案の第10条)
D 基本計画の樹立・施行の主体を市・道教育監にしている。(案の第11条〜第13条)
E 地方自治体における平生教育振興院の運営の主体を市・道教育監にしている。(案の第20〜第21条)
F 各級学校の長が地域住民や親、生徒の要求に応える平生教育を地方自治体または民間に委託する場合、その委託先として営利を目的とする法人または団体は除く。(案の第29条第2項)
既述のように、法の名称及び目的において、林議員らは「平生学習」の概念を取り入れた「平生学習法(案)」を提案しているが、小委員会の修正案では、その林議員らの案ではなく、李議員らの改正案に基づき、法律の名称を「平生教育法」と命名し、「平生教育の振興に対する国及び地方自治体の責任と、平生教育制度とその運営に関する基本的な事項を規定することを目的」(案の第1条)としている。また、同修正案における用語の定義は、李議員らの改正案に平生教育の領域を加えて行っている。すなわち、案の第2条に「『平生教育』とは、学校の正規教育課程を除いた学力補完教育、成人基礎・文解教育、職業能力向上教育、人文教養教育、文化芸術教育、市民参加教育等を含むすべての形態の組織的な教育活動を示す」と規定しているのである。
ところが、平生教育法と他の法律との関係においては、李議員らが提案した「他の法律に優先して適用する」(李議員らの案の6条)ではなく、現行の平生教育法及び林議員らの改正案の同じく、「平生教育に関して他の法律に特別な規定がある場合を除いては、この法を適用する」(案の第3条)を採用している。
第三に、今回の法改正において最も焦点となっているのが、平生教育振興院の設立に関する条項である。現行の平生教育法に基づいて設立された中央平生教育センターは、現在教育人的資源部が指定した韓国教育開発院に委託運営されており、同センターが平生教育と関連のある政府の各部局との統合的な連携業務を推進するには、組織体制からすれば困難である。それ故、平生教育における体系的・効率的な行財政支援体制の構築のためには平生教育推進体制の改編を行い、現在委託運営されている平生教育センターを独立機関化し、中央に平生教育振興院を、そして、これに相応するように、地方にも市・道平生教育振興院を設立しなければならないと提案している。このような平生教育推進体制の改編に関しては、李議員ら及び林議員らが各改正案においてすでに出されており、それらに基づき、修正案でも平生教育振興院の独立機関化を定めているのである(案の第19条、第20条、第21条)。
各図−略(「東アジア社会教育研究」第12号を参照のこと)
<図1>現行の平生教育法における平生教育支援体制
<図2>李仁栄議員らの改正案における平生教育伝達及び支援体制
<図3>林亥圭議員らの改正案における平生学習支援体制
<図4>国会教育委員会の修正案における平生教育支援体制
ところが、平生教育振興院の業務においては、現行の平生教育法及び李議員らの改正案と、林議員ら及び小委員会の修正案との間に相違点がみられる。すなわち、現行の平生教育法及び李議員らの改正案では、平生教育振興院(センター)の機能を平生教育に関する研究・開発及び支援業務と定めていたが、小委員会の修正案では、研究・開発の業務は盛り込まず、平生教育の振興のための支援及び調査業務に限定している。これは、林議員らの改正案に基づくものと思われる。林議員らの改正案では平生学習の振興のための研究・開発及び支援業務の円滑な遂行のために、業務間の機能調整及び役割の区分が必要とされていた。つまり、修正案では、平生学習振興院には平生学習の支援体制を統合する実務執行の役割を与える一方、従来平生教育センターを運営してきた韓国教育開発院には平生教育のための研究・開発の機能を担当させることによって、二つの機関の相互補完的発展方向を提示しようとしているのである[19]。一方、 地方自治体における平生教育振興院の運営においては、李議員ら及び林議員らがその運営主体を市・道知事にしているのに対し、修正案はその運営主体を市・道教育監にしている(案の第20〜第21条)。
第四に、同修正案では、上記の二つの改正案と同じく、「学校の平生教育」という条項を新設し、「各級学校の長は、該当学校の教育条件を考慮し、地域住民と親、生徒の要求に符合する平生教育を直接実施し、または地方自治体あるいは民間に委託して実施することができる」と定めているが、「ただし、営利を目的とする法人及び団体は除く」という文言を追加している。
おわりに
1999年に平生教育法が制定されてから、韓国の平生教育は、制度及び実践において著しい発展をみせている。また地方自治体及び住民の平生教育に対する関心度も高まり、今日の韓国には過去例を見ない平生教育ブームが起こっている。近年韓国では、国が毎年自治体を指定し、財政的支援も施している平生学習都市事業をはじめ、平生学習フェスティバル、住民自治センターなどの普及と、学点(=単位)銀行制度や独学制度等の学歴認定システムなど、平生教育事業の活性化が進んでいる。しかし、これらの事業に関する法的根拠は弱く、その根拠条項の新設が求められている状況である。付け加えていえば、このような様々な平生教育事業を進めていく中で、その根拠法令である平生教育法の欠点が浮き彫りにされるとともに、平生教育に関する様々な形態の教育政策の樹立や支援事業が他の法律に基づいて実施されるなど、総合的で体系的な平生教育支援が行われておらず、結果的には財政的な損失までももたらしているのである。このような問題は、平生教育法が平生教育に関する基本法的な地位を有しているにもかかわらず、基本法としての機能を十分に果たしていないということに起因するものである。
このような背景から、平生教育法の改正論議が始まり、以上で検討してきたように、与野党から各々平生教育法の改正案が出されたのである。最終的には、与野党の改正案に基づき、国会教育委員会の法案審査小委員会が修正案を作成しているが、その修正案において評価できるものとしては、まず、平生教育振興基本計画の樹立及び施行をはじめ、平生教育振興政策のための中央及び地方における審議機構の設置、そして平生教育振興関連の業務を専門的に支援する中央及び地方における担当機関の設置などといった平生教育推進体制の構築があげられる。第二に、平生教育士という専門職員を地域に設置される公的平生教育機関に配置するように義務付け、平生教育の専門性を確保させたことである。第三に、平生学習都市や学習口座制、文解教育等に関する条項を新設し、平生教育事業の法的根拠を構築した点である。
このような韓国における平生教育法改正の動きは、近年教育基本法の改正及び地方分権一括法の制定などの影響が、社会教育法にも響いている日本に与える示唆は大きいと思われる。特に、市・郡・区(=市町村)レベルにおける平生学習館の設置及びそれらの公的平生教育機関における平生教育士の必置(案)は、近年の教育改革により、社会教育の公共性及び専門性が問われている日本社会にとっては大いに参考となる部分と思われる。
しかし、他の法律との関係において「他の法律に特別な規定がある場合」には依然として平生教育法の適用ができないと規定されている点、そして教育法体系上における平生教育概念のとらえ方のずれなどは、同修正案における問題点としてあげられる。とりわけ、平生教育の概念のとらえ方に関しては、憲法及び教育基本法、平生教育法において統一性が乏しく、平生教育の広義及び狭義の概念が混用されているのである。すなわち、憲法第31条第5項において「国家は平生教育を振興しなければならない」と平生教育の概念を広義にとらえつつ、同法第31条第6項では「学校教育及び平生教育を含めた教育制度と運営、教育財政及び教員の地位に関する基本的な事項は法律で定める」と狭義にとらえているのである。さらに、現行の教育基本法においては、「国民の平生教育のためのすべての形態の社会教育は、奨励されなければならない」(教育基本法第10条第1項)と規定しているなど、「社会教育」の概念を依然として用いており、平生教育を広義にとらえていることがわかる。
一方、修正案は、平生教育の領域に関する内容を取り入れて平生教育の定義を行い、法の適用範囲を拡大してはいるものの、依然として「学校の正規の教育課程を除いた」すべての形態の組織的な教育活動を示す狭義の概念をとっているなど(修正案の第2条第1項)、平生教育の概念における憲法及び教育基本法との齟齬をみせている。このような教育法体系上における平生教育概念のとらえ方の矛盾が解決されない状況では、「人的資源開発基本法」などの関連法との関係においてはもちろんのこと、平生教育法の基本法としての機能も期待しがたいと思われる。
【資料】
|
現行の平生教育法(1999.8) |
李仁栄議員(開かれたウリ党・与)の改正案 (2006.2.21) 平生教育法 |
林亥圭議員(ハンナラ党・野)の改正案 (2007.4.9) 平生学習法 |
国会教育委員会法案審査小委員会の修正案( 平生教育法 |
|
総 則 |
目的 |
第1条 この法律は平生教育に関する事項を定めることを目的とする。 |
第1条 この法は、「憲法」第31条第5項及び「教育基本法」第10条の規定による立法趣旨に基づき、平生教育の振興に対する国及び地方自治体の責任と平生教育制度とその運営に関する基本的事項を規定することを目的とする。 |
第1条 この法は、「憲法」第31条第5項及び「教育基本法」第10条の規定による立法趣旨に基づき、国民の平生学習の振興のための国及び地方自治体の役割に関する基本的事項を規定することを目的とする。以下、この法で称する平生教育は社会教育を意味する。 |
第1条 この法は、「憲法」第31条第1項及び第5項、そして「教育基本法」第3条及び第10条の規定による立法趣旨に基づき、平生教育の振興に対する国及び地方自治体の責任と平生教育制度とその運営に関する基本的な事項を規定することを目的とする |
定義 |
第2条 この法で使用する用語の定義は次の通りである。 1. 平生教育とは、学校教育を除いたすべての形態の組織的な教育活動を示す。 |
第2条 平生教育とは、学校の正規の教育課程を除いたすべての形態の組織的な教育活動を示す。 (新)文解教育を含む。 |
第2条 平生学習とは、国民が生涯にわたって遂行するすべての種類の学習を指し、学校教育による学習、平生教育による学習及び教授過程によらない自己学習等を意味する。 (新)学校教育及び自己学習の定義を含む。 (新)文解教育を含む。 |
第2条 この法において使用する用語の定義は次の通りである。 1.「平生教育」とは学校の正規教育課程を除いた学力補完教育、成人基礎・文解教育、職業能力向上教育、人文教養教育、文化芸術教育、市民参加教育等を含むすべての形態の組織的な教育活動を示す。 (新)文解教育を含む。 |
|
他の法律との関係 |
第3条 平生教育に関しては他の法律に特別な規定がある場合を除いてはこの法律を適用する。 |
第6条(他の法律との関係) 1.この法は平生教育に関し、他の法律に優先して適用する。 2.平生教育に関する法律を制定し、改正する際には、この法に符合するようにしなければならない。 |
第3条 この法は、平生学習に関しては他の法律に特別な規定がある場合を除いては、この法を適用する。 |
第3条 1.平生教育に関して、他の法律に特別な規定がある場合を除いては、この法を適用する。 |
|
理念 |
第4条 4.平生教育の定められた課程を履修した者にはこれにふさわしい社会的待遇を附与しなければならない。 |
第4条 4.平生教育の定められた課程を履修した者にはこれにふさわしい学歴認定等の社会的待遇を附与しなければならない |
第4条(平生学習の理念) 1.すべて国民は平生学習の機会を均等に保障される。 2.平生学習は、学習者の自由な参加と自発的な学習を基に行わなければならない。 3.一定の平生教育課程を履修した者にはそれに相当する資格及び学歴等の社会的待遇を付与しなければならない。 |
第4条 4.平生教育の定められた課程を履修した者にはこれにふさわしい資格及び学歴認定等の社会的待遇を附与しなければならない |
|
領域 |
新設 |
第5条(平生教育の領域) 1. 平生教育の領域は成人基礎教育及び文解教育、市民教育、職業能力開発教育、文化芸術教育、地域社会教育等を含む。 |
同左 |
第2条へ |
|
国及び地方自治体の任務 |
基本計画樹立 |
新設 |
第10条(平生教育振興政策基本計画の樹立) 1.教育人的資源部長官は平生教育振興政策に関する基本計画(以下、「基本計画」という)を5年ごとに樹立しなければならない。 |
第10条(平生学習振興政策基本計画の樹立) 1.教育人的資源部長官は「人的資源開発基本法」第5条規定による人的資源開発基本計画を樹立するにあたって平生学習振興計画(以下、「基本計画」という)を含め、樹立しなければならない。 |
第9条(平生教育振興基本計画の樹立) 1.教育人的資源部長官は、5年ごとに平生教育振興基本計画(以下「基本計画」という)を樹立しなければならない。 |
計画樹立及び施行 |
新設 |
第11条(年度別平生教育振興振興計画の樹立・施行等) 1.関連の中央行政機関の長及び市・道知事は基本計画による年度別平生教育振興施行計画(以下「施行計画」という)を樹立・施行及び評価しなければならない。 2.教育人的資源部長官は施行計画を調整し、その履行状況を点検しなければならない。 |
第11条(年度別平生学習振興振興計画の樹立・施行等) 市・道知事は「人的資源開発基本法」第7条の3第2項第3号に年度別平生学習振興施行計画の樹立・施行に関する事項を含めなければならない。 |
第11条(年度別平生教育振興施行計画の樹立・施行) 1.市・道教育監は、第9条の基本計画に基づき、年度別平生教育振興施行計画(以下「施行計画」という)を樹立・施行しなければならない。 |
|
国家委員会 |
新設 |
第13条(平生教育振興政策調整委員会) 1.平生教育振興政策に関する主要事項を審議・調整するために、国務総理所属下に平生教育振興政策調整委員会(以下、「調整委員会」という)を置く。 |
第13条(平生学習振興特別委員会の設置等) 1.平生学習振興政策に関する主要事項を審議するために、「人的資源開発基本法」第7条による国家人的資源委員会の傘下に同条9項の規定によって平生学習振興特別委員会(以下、「特別委員会」という)を置く。 |
第10条(平生教育振興委員会の設置) 1.平生教育振興政策に関する主要事項を審議するために平生教育振興委員会(以下、「振興委員会」という)を教育人的資源部長官の所属下に置く。 |
|
地域協議会 |
第10条(平生教育協議会) |
第14条(地域平生教育・人的資源開発委員会) 1.地方自治体は該当地域の平生教育計画の樹立及び施行に関し、必要な事項を審議するために地域平生教育・人的資源開発委員会(以下、「地域委員会」という)を構成・運営しなければならない。 2.地域委員会の組織と運営等に関して必要な事項は該当地方自治体の条例で定める。 |
第14条(市・道平生学習協議会) 1. 市・道平生学習協議会の機能は、「人的資源開発基本法」第7条3に規定しており、その機能を代行する。 2. 「人的資源開発基本法」第7条の3第3項の協議会の構成と運営に関する条例を定めるにあたって、その構成においては関係公務員、平生学習関連の専門家、平生教育関連機関の運営者等平生学習に関する専門知識及び経験が豊富な者を必ず含まなければならない。 |
第12条(市・道平生教育協議会) 1.第11条による施行計画の樹立・施行に必要な事項を審議するために、市・道教育監の所属下に市・道平生教育協議会(以下「市・道協議会」という)を置く。 2.市・道協議会は、議長・副議長を含めて20人以内の委員で構成する。 3.市・道協議会の議長は市・道教育監にし、副議長は住民平生教育を担当する特別市・広域市の副市長または道・特別自治道の副知事にする。 4.市・道協議会の委員は、関係公務員、平生教育関連の専門家、平生教育関連機関の運営者等平生学習に関する専門知識及び経験が豊富な者の中から議長が委嘱する。 5.市・道協議会の構成・運営に必要な事項は地方自治体の条例で定める。 |
|
第15条(地域平生教育・人的資源開発推進協議会) 1.市・郡及び自治区には地域住民のための平生教育の効率的な実施のための協議・調整その他に平生教育の実施者相互間の協力増進のために地域平生教育・人的資源開発推進協議会(以下、「推進協議会」という)を置く。 2.第1項の規定による推進協議会の組織と運営等に関して、必要な事項は該当の地方自治体の条例をもって定める。 |
第15条(市・郡・区平生学習協議会) 1.市・郡及び自治区には地域住民のための平生学習の効率的実施と関連事業間の調整及び関連機関間の協力増進のための市・郡・区平生学習協議会(以下、「市・郡・区協議会」という)を置く。 2.市・郡・区協議会の議長は、市長・郡守または区長とし、市・郡・区及び地域教育庁関連の公務員・平生教育専門家及び管轄地域内の平生教育関連機関の運営者などの中から、議長が委嘱する12人以内の議員によって構成する。 |
第14条(市・郡・区平生教育協議会) 1.市・郡及び自治区には地域住民のための平生教育の実施と関連のある事業間調整及び関連機関間の協力増進のために、市・郡・区平生教育協議会(以下、「市・郡・区協議会」という)を置く。 2.市・郡・区協議会は議長1人と副議長1人を含め、12人以内の委員で構成する。 3.市・郡・区協議会の議長は、市長・郡守または区長にし、委員は市・郡・区及び地域教育庁の関係公務員、平生教育専門家、管轄地域内の平生教育関連機関の運営者の中から議長が委嘱する。 |
|||
平生学習都市 |
新設 |
第16条(平生学習都市) 1.国は、地域社会の平生教育の活性化のために、市・郡及び区を対象に平生学習都市を指定及び支援することができる。 2.第1項の規定による平生学習都市間の連携、協力及び情報交流の増進のために全国平生学習都市協議会を置くことができる。 3.第1項の規定による平生学習都市の指定及び支援と第2項の規定による全国平生学習都市協議会の構成及び運営等に関する必要な事項は、大統領令で定める。 |
第16条(平生学習都市) 1.同左 2.同左 3.平生学習都市の指定及び支援に関する必要な事項は、教育人的資源部長官が定める。 |
第15条(平生学習都市) 1.同左 2.同左 3.第2項による全国平生学習都市協議会の構成及び運営に必要な事項は大統領令で定める。 4.平生学習都市の指定及び支援に必要な事項は教育人的資源部長官が定める。 |
|
平生教育統計 |
新設 |
なし |
第19条(平生教育統計調査等) 1.教育人的資源部長官及び市・道知事は、平生教育の実施及び支援に関する現状等の基礎資料を調査し、関連統計を公開しなければならない。 2.平生教育関連業務の担当者及び平生教育機関の運営者等は、第1項の調査に協調しなければならない。 |
第18条(平生教育統計調査等) 1.教育人的資源部長館及び市・道教育監は、 平生教育の実施及び支援に関する現状等の基礎資料を調査し、関連統計を公開しなければならない。 2.平生教育関連業務の担当者及び平生教育機関の運営者等は、第1項の調査に協調しなければならない。 |
|
中央センター |
第13条(平生教育センター等の運営) |
第19条(平生教育振興院) 1.国は平生教育振興関連の研究・開発及び支援業務を遂行するために、平生教育振興院(以下「振興院」という)を設立する。 2.振興院は法人にする。 3.振興院は、その主な事務所があるところにおいて設立登記をすることによって成立する。 4.振興院は、次の各号のいずれに該当する業務を遂行する。 @平生教育振興のための政策研究の開発 A第13条の規定による平生教育振興政策調整委員会が審議する主要な平生教育関連政策及び計画樹立の支援 B平生教育プログラムの開発支援 C第24条の規定による平生教育士を含む平生教育従事者の研修 D平生教育機関間の連携体制の構築 E第20条の規定による地域平生教育振興センターに対する支援 F平生教育総合情報システムの構築及び運営 G平生教育統計調査 H「学点(=単位)認定等に関する法律」及び「独学による学位取得に関する法律」による学点及び学歴認定に関する事項 I第41条第1項の規定による学習口座制の統合管理・運営 Jその他に振興院の目的遂行のために必要な事業 |
第20条(平生学習振興院) 1.国は、平生学習振興関連の支援業務を遂行するために、平生学習振興院(以下「振興院」という)を設立する。 2.振興院は法人にする。 3.振興院は、その主な事務所があるところにおいて設立登記をすることによって成立する。 4.振興院は、次の各号のいずれに該当する業務を遂行する。 @平生学習振興のための支援業務 A第13条の規定による平生学習振興特別委員会が審議する主要な平生学習関連の基本計画及び政策樹立の支援 B平生教育プログラムの開発支援 C第25条の規定による平生教育士を含む平生教育従事者の研修 D平生教育機関間の連携体制の構築 E第21条の規定による市・道平生学習振興院に対する支援 F平生学習総合情報システムの構築及び運営 G平生学習統計調査 H「学点(=単位)認定等に関する法律」及び「独学による学位取得に関する法律」による学点及び学歴認定に関する事項 I第41条第1項の規定による学習口座制の統合管理・運営 Jその他に振興院の目的遂行のために必要な事業 |
第19条(平生教育振興院) 1.国は、平生教育振興関連業務を支援するために、平生教育振興院(以下「振興院」という)を設立する。 2.振興院は法人にする。 3.振興院は、その主な事務所があるところにおいて設立登記をすることによって成立する。 4.振興院は、次の各号のいずれに該当する業務を遂行する。 @平生学習振興のための支援及び調査業務 A第10条の規定による振興委員会が審議する主要な平生学習関連の基本計画及び政策樹立の支援 B平生教育プログラムの開発支援 C第24条の規定による平生教育士を含む平生教育従事者の研修 D平生教育機関間の連携体制の構築 E第20条の規定による市・道平生教育振興院に対する支援 F平生教育総合情報システムの構築及び運営 <削除> G「学点(=単位)認定等に関する法律」及び「独学による学位取得に関する法律」による学点及び学歴認定に関する事項 H第23条による学習口座制の統合管理・運営 Iその他に振興院の目的遂行のために必要な事業 |
|
地域センター |
第14条(地域平生教育情報センターの運営) |
第20条(地域平生教育振興センターの運営) 1.市・道知事は、平生教育機関を指定し、第19条第1項の規定による振興院の機能と平生教育の情報提供、平生学習の相談等を遂行する地域平生教育振興センターを運営することができる。 |
第21条(市・道平生学習振興院の運営) 1.市・道知事は、「人的資源開発基本法」第7条3が推進する事項を含み、大統領令が定めることに基づいて地域人的資源開発協議会の業務を遂行するために市・道平生学習振興院を運営することができる。この際、市・道教育監(=教育委員会委員長)と協議しなければならない。 2.「人的資源開発基本法」第7条3の事業と次の各号に該当する機能を遂行する。 @地域人的資源開発協議会の推進事業の遂行 A当該地域の平生学習機会及び情報の提供 B平生学習相談 C平生教育プログラムの運営 D当該地域の平生教育機関間相互連携体制の構築 Eその他の平生学習振興のために市・道知事が要求する事項 |
第20条(市・道平生教育振興院の運営)市・道教育監は、大統領令が定めることにより、市・道平生教育院を設置または指定・運営することができる。 2.市・道平生教育振興院は次の各号に該当する機能を遂行する。 @該当地域の平生教育機会及び情報の提供 A平生教育相談 B 平生教育プログラムの運営 C当該地域の平生教育機関間相互連携体制の構築 Dその他の平生教育振興のために市・道教育監が要求する事項 |
|
第21条(地域平生学習センターの設立・運営) 1.地方自治体の長は、管轄区域内の住民を対象に平生教育の機会を提供するために、地域平生学習センターを設立・運営しなければならない。 |
第22条(市・郡・区平生学習館等の設置・運営) 1.市・郡・区長は、管轄区域内の住民を対象に平生教育プログラムの運営と平生学習機会を提供するために、平生学習館を指定または設置・運営しなければならない。 |
第21条(市・郡・区平生学習館等の設置・運営) 1.市・道教育監は、管轄区域内の住民を対象に 平生教育プログラムの運営と平生学習機会を提供するために、平生学習館を指定または設置・運営しなければならない。 2.基礎自治体の首長は、平生学習館の設置または財政的支援等、地域社会において平生教育を振興するために必要な事業を実施することができる。 |
|||
学習口座制 |
新設 |
第23条(人的資源の活用) 2.国は、人的資源の効率的な開発・管理のために、国民の個人的学習経験を総合的に集中管理する制度を導入・運営することができるように努めなければならない。 |
第24条(学習口座制) 1.国は、国民の平生学習を促進し、人的資源の効率的な管理のために、国民の個人的学習経験を総合的に管理する制度(以下、「学習口座制」という)を運営するように努めなければならない。 |
第23条(学習口座制)国は、国民の平生教育を促進し、人的資源の開発・管理のために、国民の個人的学習経験を総合的に管理する制度(以下、「学習口座制」という)を導入・運営することができるように努めなければならない。 |
|
平生教育士 |
平生教育士の配置及び採用 |
第19条(平生教育士の配置) |
第26条(平生教育士の配置及び採用) 1.平生教育機関には効率的な平生教育実施のために、平生教育士を配置しなければならない。 2.「幼児教育法」・「初・中等教育法」及び「高等教育法」の規定による幼稚園及び学校の長は、平生教育プログラムを運営するにあたって必要な場合に平生教育士を採用することができる。 3.第21条第1項の規定による地域平生学習センターには、平生教育士を配置しなければならない。 |
第26条 1.同左 2.同左 3.第21条による市・道平生教育振興院及び第22条による市・郡・区平生学習館には平生教育士を配置しなければならない。 |
第26条 1.平生教育機関には第24条第1項による平生教育士を配置しなければならない。 2.同左 3.第20条による市・道平生教育振興院及び第21条による市・郡・区平生学習館に平生教育士を配置しなければならない。 |
|
新設 |
第27条(平生教育士の採用に対する経費補助)国及び地方自治体は第26条第2項の規定による平生教育実施のために、プログラムの運営及び専門人材の平生教育士の採用に必要な経費等を補助することができる。 |
第27条 同左 |
第27条 同左 |
|
平生教育施設及び機関 |
平生教育機関 |
新設 |
第28条(平生教育機関の設置者) 1.平生教育機関の設置者は、多様な平生教育プログラムを実施し、地域社会の住民のための平生教育に寄与しなければならない。 |
第28条(平生教育機関の設置者) 1.平生教育機関の設置者は、学習者の便宜提供、負担軽減及び教育機会の均等な付与等に努力するなど平生教育担当者としての責務を果たさなければならない。 2.平生教育の設置者は、特別市、広域市及び特別自治道の条例が定めることに基づいて、平生教育施設の運営と関連し、施設の受講生に発生する生命、身体上の損害を賠償することを内容にする保険加入及び控除事業への課業等の必要な安全措置を取らなければならない。3.平生教育機関の設置者は、学習者が受講を継続することができない場合または平生教育機関の閉鎖等によって教習を継続できない場合には、学習者からもらった受講料等の返還など学習者の保護のために必要な措置を取らなければならない。 |
第28条 同左 |
学校の平生教育 |
新設 |
第29条(学校の平生教育) 1.「初・中等教育法」による各級学校の長は、該当学校の教育条件を考慮し、地域住民と親、生徒の要求に符合する平生教育を直接、または地方自治体及び民間に委託して実施しなければならない。 2.第1項の規定による平生教育のために各級の学校の教室、図書館、体育館等その他の施設は、平生教育のために積極的に活用しなければならない。 3.第1項及び第2項の規定により、学校長が市・郡及び自治区に学校を開放する場合、開放時間の間の該当施設の管理及び運営に関する事項は、該当自治体の条例で定める。 4.第1項及び第2項の規定により、学校の平生教育を運営する者は、平生教育運営と関連して学習者に発生した生命・身体上の損害等を賠償することを内容にする保険加入または控除事業の加入等、必要な安全措置を取らなければならない。 |
第30条(学校の平生教育) 1.「初・中等教育法」及び「高等教育法」による各級学校の長は、次の各号の該当する平生教育を実施する。 @平生学習の理念に基づき、教育課程と方法を学習者観点から開発・施行するようにする。 A該当学校の教育条件を考慮し、地域住民と親、学生の要求に符合する平生教育を実施し、または地方自治体に委託して実施することができる。 B学校を中心に共同体及び地域文化開発に努めなければならない。 2.同左 3.同左 4.同左 |
第29条(学校の平生教育) 1.「初・中等教育法」及び「高等教育法」による各級学校の長は、平生教育を実施するにあたって、次の各号の事項を遵守しなければならない。 @平生教育の理念に基づき、教育課程と方法を需要者観点から開発・施行するようにする。 A学校を中心に共同体及び地域文化の開発に努めなければならない。 2.各級学校の長は、該当学校の教育条件を考慮し、地域住民と親、学生の要求に符合する平生教育を直接実施し、または地方自治体あるいは民間に委託して実施することができる。ただし、営利を目的とする法人及び団体は除く。 |
|
第20条(学校形態の平生教育施設) (省略) |
第30条(学校形態の平生教育施設) 1.学校形態の平生教育施設を設置、運営しようとする者は、大統領令が定める施設、設備を整え、教育監に登録しなければならない。 2.教育監は第1項の規定による学校形態の平生教育施設の中、一定の基準以上の要件を満たしている平生教育施設に対しては、これを高等学校卒業以下の学歴が認められる施設として指定することができる。 |
第32条(学校形態の平生教育施設) 1.同左 2.同左 3.第2項の規定による学歴認定施設の教員資格・入学資格・指定基準及び手続等に関する必要な事項は大統領令で定める。 4.地方自治体は、当該の地方自治体の条例が定めることにより、予算の範囲内で学歴認定施設の補助金の申請に対して補助金を交付し、またはその他の支援をすることができる。 5.学歴認定施設として指定を受けた者が、その施設を閉鎖しようとする際には、在学生の処理方案等、大統領令が定める事項を整え、管轄の教育監の認可を受けなければならない。 |
第31条 1.同左 2.同左 3.第2項による学歴認定施設には「初・中等教育法」第19条第1項の教員を置くことができ、この際教員の服務・国内研修及び再教育に関しては、国公立学校の教員に関する規定を準用する。 4.「初・中等教育法」第54条第4項によって専攻科を設置・運営する高等技術学校は、教育人的資源部長官の認可を受け、専門大学卒業者と同等の学歴・学位が認定される平生教育施設に転換・運営することができる。 5.第2項による学歴認定施設の指定基準・手続・入学資格及び教員資格等に必要な事項は大統領令で定める。 6.第4項による平生教育施設の設置基準、学点制等の運営方法、認可の手続等は大統領令で定める。 |
||
文解教育 |
文解教育の実施等 |
新設 |
第38条(文解教育の実施等) 1.国及び地方自治体は、成人の社会生活に必要な文解能力等基礎能力の向上のために努めなければならない。 2.教育監は、大統領令が定めることにより、管轄区域内にある初・中学校に成人のための文解教育プログラムを設置・運営し、地方自治団体・法人等が運営する文解教育プログラムを指定して支援することができる。 3.国及び地方自治体は第2項の規定による文解教育プログラムに対し、大統領令が定めることに基づき、財政的支援をすることができる。 |
第39条 同左 |
第38条 同左 |
教育課程及び学歴認定等 |
新設 |
第39条(文解教育プログラムの教育課程及び学歴認定等) 1.第38条の規定に基づいて設置または指定された文解教育プログラムを履修した者に対し、それに相応する学歴を認めるが、教育課程編成及び学歴認定の手続等に関して細部的な事項は大統領令で定める。 |
第40条 同左 |
第39条 同左 |
|
平生学習結果の管理・認定 |
学習口座制の運営 |
新設 |
第41条(学習口座制の運営) 1.国は、国民の平生学習を促進し、人的資源の効率的な開発・管理のために、国民の個人的学習経験を総合的に集中管理する制度(以下、「学習口座制」という)を導入・運営しなければならない。 2.学習口座制の開設とこれに収録される情報の範囲、閲覧、証明書の発給及びこの運営業務の委託等に関する必要な事項は大統領令で定める。 |
第42条 同左 |
なし |
補則 |
租税の減免 |
新設 |
第45条(租税減免等) 1.国は、平生教育施設及び機関に対し、「租税特例制限法」等の関係法令が定めることにより、租税その他の公課金を減免または免除することができる。 2.国は平生教育施設及び機関が平生教育活動に使う実験・実習・視聴覚機器その他に必要な用品と高度の精密性等によって輸入が不可避な平生教育施設・設備等に対しては「関税法」が定めることに基づいて関税を減免することができる。 |
なし |
なし |
類似名称の使用禁止 |
新設 |
第46条(類似名称の使用禁止)この法による調整委員会・振興院・地域平生教育振興センター及び地域平生学習センターでなければ、平生教育振興政策調整委員会、平生教育振興院、地域平生教育振興センター、地域平生学習センター、またはこれと類似している名称を使用することができない。 |
第46条(類似名称の使用禁止)この法による特別委員会・振興院・地域平生学習振興院ではなければ、平生学習特別委員会、平生学習振興院、地域平生学習振興院、またはこれと類似している名称を使用することができない。 |
第44条(類似名称の使用禁止)この法による振興委員会・振興院・平生教育協議会及び平生学習館でなければ、これと類似している名称を使用することができない。 |
資料:パク・インゾン「平生学習法(案)についての検討意見」林亥圭(国会議員)『【政策資料集2007-2】平生学習か、平生教育か―「平生教育法」全部改正案のための政策討論会』
<参考>
韓国「平生教育」の概念について(TOAFAEC研究会の論議、2005/10/07) 小林
10月7日夜は第111回定例研究会。ご案内の通り、先日の韓国・第4回平生学習フェスティバル訪問の報告会でした。主報告の金侖貞さん、副報告の小田切督剛さん、伊藤長和さんともに、詳細なレジメを用意され、現代韓国・平生(=生涯)学習の動向を本格的に論議する久々の研究会となりました。
福島から浅野かおるさんが初めて出席されました。また久しぶりに谷和明さんや岩本陽児さんの顔もあり。このようなメンバーで、韓国・平生教育・平生学習にテーマをしぼった研究会を継続的に開けないものかと思いました。出された論点や課題は、興味深いものがあり、当然のことながら、一夜ではとても論じつくせない。
論点の一つは、平生教育の概念、あるいは旧来の社会教育との関係について。この問題は、韓国・平生教育学会がいま論議している「平生教育法」改正問題にも関連(南の風に李正連さんが紹介)しています。研究会ではそこまで議論が及びませんでしたから、ひとこと追記しておきたくなって・・・。
現行の韓国・平生教育法は「“平生教育”とは学校教育を除くすべての形態の組織的な教育活動」(第2条・定義)と規定しています。これは旧来の社会教育法の控除的な定義の仕方と同じ。
控除的な定義は必然的に消極的になってしまう。いま提案されている平生教育法改正案の領域定義では、次のように積極的な内容となっていることが注目されます。
新設条項案・第4条の1(平生教育の領域)「平生教育は、成人基礎教育及び文解教育、市民教育、職業能力開発教育、文化芸術教育、地域社会教育等を含む。」
ちなみに「文解教育」とは識字教育、「地域社会教育」は地域の社会教育ではなく、コミュニテイ(地域社会)教育のこと。 【南の風】第1542号(2005年10月9日)
トップページへ